ゲーム音楽に付いて
2000年3月 公開
いわゆるゲーム音楽と呼ばれるものについて、
少々書きたいと思う。僕自身、
大規模なRPG開発のプロジェクトにおいて、
音楽を担当しているが、劇伴あるいはBGMと呼ばれる
これらの枠組みも、通常の映画やドラマなどの
ものとくらべると、いくつか異なっている部分がある。
ゲームという特殊なメディアのニーズに応えるために、
ゲーム音楽もまた、
特殊な発展の仕方をしてきたといえるだろう。
RPGを代表的な例にとって説明すると、
ゲーム音楽は、主に5つのカテゴリーに分かれる。
それぞれに、ゲーム内での位置付けや、
- オープニング/エンディング
- フィールドBGM
- バトルBGM
- イベントBGM
- ジングル
使われ方が異なるため、おのずと曲の構造も異なる。
1.オープニング/エンディング
これは、ゲーム開始時に流れるオープニングムービーや、
エンディング時のムービーなどで使われる、
非常にテーマ性の強い音楽である。
明確なメロディーやゲームの印象を集約した
イメージを要求され、短時間でユーザーに
その雰囲気を伝えるのが最大の目的である。
どちらかというと、耳に残る事が大事で、
出来れば、画面を観ていない人間を、音だけで
振り向かせるような訴求力があることが望ましい。
作曲上の制約も少なく、
音楽としては一般の劇伴ともあまり目立った違いは無い。
2.フィールドBGM
プレーヤーがフィールド画面を歩いている時に
使われる音楽。その最大の目的は、世界の、
あるいはその場所の雰囲気や、状況を伝えることにある。
ゲームという限られた表現手段で、記号化されて
抜け落ちてしまっている、ニュアンスの部分を、
補うためのものである。テーマ性は低く、
プレーヤーが長時間聴き続けるものであることを
考慮し、あまり耳につかない音楽であることが必要で、
出来れば、風景の一部として機能するのが望ましい。
鳴っていることをプレーヤーが意識しないようなもの、
プレーヤーの意識の下に潜り込んでしまって、
気分を下から支えるもの。極端な考え方をすれば、
曲でなくてもよいのであって、以前はハードの性能上、
非効率的であるがため取れなかった、
「風や水音などその場所で聞こえるべき環境音を鳴らす」
という方法も効果的である。
3.バトルBGM
プレーヤーがモンスターとバトルをする時に
使われる音楽。そのバトルが、ゲームの中で
どういう位置付けにあるかによって、
味つけの仕方は異なるが、基本的には、
危機感と爽快感の間でバランスをとりながら
作曲されるべきものである。リズムに重点をおき、
煩雑になりやすいバトルの操作によるストレスを
緩和することが、最も大事な目的となる。
特に注意すべきなのは、通常のバトルにおいて
流される曲は、おそらく全ゲームを通じて
最も長い時間、聴かれるであろうという点である。
凡庸なメロディーであってはいけないのは当然だが、
同時に、展開の多様性も要求されるのが、
このカテゴリーで、演奏時間も長く、
雰囲気のバリエーションも様々につけて、ユーザーを
飽きさせないように工夫していくことが必要である。
4.イベントBGM
ゲームの中でのキャラクターの感情を
プレーヤー自身のものとするために、
いわゆる演出らしい演出として使われる音楽。
感情装置として働くのは必須であるが、
緻密に構成することによって、それに留まらない、
キャラクターの持つ精神性や、
葛藤などを表現することができる。
もう少し踏み込んで言えば、悲しいとか、嬉しいとか、
そういった単純な感情を表現するのは容易いことであり、
言葉にならないような複雑な感情を、
複雑なまま表現することこそが、難関であると同時に、
創作者としての醍醐味なのである。
メロディーだけでもダメ。展開だけでもダメ。
一曲の中に、ドラマが組み込まれていなくてはいけない。
最も難しく、緊張を強いられる種類の仕事である。
5.ジングル
ゲームの仕様上、フォローしなくては
格好がつかない部分で使う音楽。
ゲームオーバーとか、レベルアップとか。
とりあえず、鳴っていればなんでもいいのは事実であるが、
例えばボタンを押した時に鳴るクリック音が、
実は大きくゲームの操作感覚を左右するように、
なんでもなく思えるちょっとしたジングルが、
プレーヤーの気持ちを左右することもある。
油断大敵である。
以上のように、ゲーム音楽を作曲する者は、
その必要とされる構造をよく理解して、
臨まなければならない。

菊田裕樹(Hiroki Kikuta) 1962年愛知県生。関西大学文学部哲学卒。漫画家を経て1991年にコンシューマゲーム開発会社であるスクウェアに入社。ゲーム音楽の作曲家として、「聖剣伝説2」「聖剣伝説3」「双界儀」などの制作に携わる。1997年株式会社サクノスを立ち上げ独立、ホラーRPG「クーデルカ」を制作。以後、フリーに。ゲームプロデューサー、ディレクター、シナリオライター、オンラインゲーム設計など、経歴多数。現在は再びゲーム音楽のフィールドを中心に仕事をする毎日。最近作は2010年末にセガより発売されたPSP向けRPG「シャイニング・ハーツ」。