少女漫画の愉悦
2000年4月 公開
1980年を頂点として、前後5年ずつに渡り、
あらゆる種類の傑作と、それを描く名手達を輩出し、
時には文学を超える次元にまで到達した表現ジャンルがあった。
少女漫画である。
古くは水野英子が「ファイヤー」を、
また年表を辿れば、1972年に萩尾望都が「ポーの一族」を
発表し、竹宮恵子も山岸凉子も既に確固たるスタイルを
築いていたが、大きな潮流のようなものが
このメディアから生まれてくるには、
さらに数年待たなくてはならない。
1974年に花とゆめが創刊、翌75年から、三原順の
「はみだしっ子」が連載を開始する。
76年にはLaLaとりりかが創刊。
おおやちきと内田善美が画力を競う。
週コミで竹宮恵子による「風と木の詩」。
りぼん本誌では陸奥A子や田渕由美子に加えて、
清原なつのがデビューし、77年には
「花岡ちゃんの夏休み」を描く。
この辺りから先はもう怒涛のように作品が生まれ、
高橋亮子なら「夏の空色」「道子」。
倉多江美なら「エスの解放」「一万十秒物語」
78年にぶーけが創刊されてからは、
岩館真理子ならば「チャイ夢」「乙女坂戦争」。
内田善美ならば「空の色ににている」「草迷宮」
「星の時計のLiddell」。笈川かおるならば「すずめ報告」。
松苗あけみならば「純情クレイジーフルーツ」。
忘れてはならない三岸せいこの「ヴィクトローラきこゆ」
「夢みる星にふる雨は・・・」と水樹和佳の
「樹魔」「伝説」「月虹-セレス還元」「イティハーサ」。
さらに吉野朔実の「月下の一群」「少年は荒野をめざす」。
枚挙に暇が無いとはこのことで、
たかだか10年の間に、恐ろしいほどの作品密度。
これと同時期に近藤ようこが居て高野文子が居て。
佐藤史生が「夢見る惑星」「ワンゼロ」を、
森脇真末味が「緑茶夢」を描いていることを考えると、
当時の少女漫画界は、まさに目眩がするほど、
才能の煌きに満ちあふれている世界だった。
無論その間も、大島弓子は淡々と「綿の国星」などの
佳作を描き続けているのだ。
さて、僕の本棚をいっぱいにしたこれらの傑作群の、
頂点と言うべきはなんだろう。
「天人唐草」「日出処の天子」の山岸凉子か。
「半神」の萩尾望都か。「吉祥天女」の吉田秋生か。
作品のクオリティーという意味で言えばそうかもしれない。
しかし、僕個人の趣味で言えば、
清原なつの女史の「真珠とり」を推したい。
この単行本に収録された『まりあ』というエピソードは、
僕の心に堪らない感慨を残し、
後の創作に影響を与えた思い出深い一篇である。
読んで欲しいと言いたいところだが、
おそらく既に絶版だろう。
漫画が日本の誇る文化などと言っても、
所詮はこの程度の扱いだというのは口惜しい限りである。

菊田裕樹(Hiroki Kikuta) 1962年愛知県生。関西大学文学部哲学卒。漫画家を経て1991年にコンシューマゲーム開発会社であるスクウェアに入社。ゲーム音楽の作曲家として、「聖剣伝説2」「聖剣伝説3」「双界儀」などの制作に携わる。1997年株式会社サクノスを立ち上げ独立、ホラーRPG「クーデルカ」を制作。以後、フリーに。ゲームプロデューサー、ディレクター、シナリオライター、オンラインゲーム設計など、経歴多数。現在は再びゲーム音楽のフィールドを中心に仕事をする毎日。最近作は2010年末にセガより発売されたPSP向けRPG「シャイニング・ハーツ」。